ミチノ・パリのスタイルと「エレガンス」

創業者兼デザイナーYasuの原点を紐解き、ミチノ・パリの魅力を探るブランド・ストーリー。前回は、Yasuの人生経験からみるメンタリティーや、独自の哲学に焦点をあてた。第2弾となる今回は、Yasuが生み出すミチノ・パリのブランドスタイル、コンセプトとなる「エレガンス」の正体とは何なのか、その概念に迫る。


▪フランスと日本のファッションの魅力と、ミチノ・パリのスタイル


いかなるブランドにも、それぞれのスタイルやコンセプトというものが存在する。日本人としてのセンスを持ちながら、フランスで技術を磨いてきたYasuの感覚は、ミチノ・パリのブランドスタイルにどのような影響を及ぼしているのだろうか。


「オートクチュールのあるフランスでは、ファッションをアートとして捉える考え方が存在します。素材の特徴や背景をより理解し、”身に着けられるアート“ として、いかにファッションに落とし込めるか。こういった美しさを追求する部分は、フランスならではのファッションの魅力といえるのではないでしょうか。」


「一方、日本のファッションは、もちろんアーティスティックな一面もありながら、より実用性や機能美を追求するものが多いと感じます。日本人が古来から持つ、”用の美” に対する憧れの念がファッションという面でも発揮されているといえるでしょう。」


日本人としてのアイデンティティを持ち、フランスを拠点とするトップメゾンでの経験を積んできたYasuが手掛けるミチノ・パリは、こうしたフランスと日本のファッションの魅力を、絶妙にミックスしたスタイルを創り上げる。


「洋服と比べ、より実用性を求められるバッグ・レザーグッズを展開する中で、フランス的な芸術性、日本的な用の美をバランスよく表現している点が、ミチノ・パリ的スタイルの大きな魅力だと僕は思っています。」



▪Yasuの思うエレガンスの概念とは?


上述の「フランス的な芸術性と日本的な用の美の折衷」が外面的なミチノのスタイルだとすると、内面的なスタイルとして、ブランドのコンセプトともいえる「エレガンス」の追及がある。では、Yasu自身が思うエレガンスの概念とは一体どのようなものなのだろうか。


「エレガンスとは、表面的なことだけではなく、その人の考え方や生き方にも言えることだと思うんです。身に着けているものはオシャレで、ファッション的にはいわゆるエレガントな着こなしをしている。けれど、本当の意味でのエレガンスというのはそれだけではありません。」


例えば、人から何かアドバイスを受けたとする。自分の考えと全く異なっていたときにどうするか。一つは、角が立たないように相手の考えを全面的に受け入れたふりをする。一つは、自分はそうは思わないとハッキリ主張する。


よく考えてみると、前者、後者どちらも初めから相手の意見を聞こうとなどしていないのがお分かりだろうか。Yasuの考えるエレガントな対応とは、このどちらでもないという。


相手の意見を一旦しっかり受け入れた上で、自分に合うのか否かを判断する。独りよがりな固定概念を捨てて様々な考えを受け入れてみることで、これまで見えていなかった新たな発見があるかもしれない。それでいて、人に左右されるのではなく自分の自然な考えも忘れない。


「自分に対してどのような外的要素が加わったとしても、相手の立場になって物事を考え、自然体でいられる自分の軸もしっかり持っている。そんな対応やメンタリティはエレガントだなと感じますね。」



■では、そのためには何を心掛ければ良いのだろうか?


「いつも、ズームインとズームアウトの視点を持つことだと思います。」


「人は常に、様々な外的要素に晒されています。例えば、たまたま乗ったタクシーのドライバーの態度が悪かった、また、良かれと思ってしたアドバイスや贈り物を無下にされた。そんな時、今いる場面、その瞬間にだけズームインすると、そこにいる自分の感情や人の態度、考えに揺さぶられてしまいます。ところが、一旦その状況を俯瞰してみる。また、数時間後、数日後の時間軸でズームアウトしてみると、不思議と刹那的な感情や考えに左右されなくなるんです。」


必要な時には自分自身にズームイン、けれど自分を俯瞰的に見るズームアウトの視点も自在に使えるようになれば、それはエレガントな姿勢に繋がるのではないだろうか。



■エレガンスを極めるための3つのエッセンス


もうひとつ、エレガンスを極めるためには「好奇心・分析力・余裕」の3つが揃っている状態が大切だとYasuは言う。


「まずは ”好奇心”。これは、様々なものにアンテナを張り巡らせる感受性だったり、常により良いものを求める上昇志向であったり。好奇心に溢れた人というのはそれだけ豊かな生き方ができるのではないかと思うんです。」


「そして ”分析力“。では、好奇心の赴くままに何でも受け入れれば良いのか。話題のアイテムやトレンド、ハイブランドのアイコニックな要素を全部採り入れれば済むのか。僕は、それはエレガントとは少し違うと思うんです。エレガントな人というのは、好奇心を持ちつつも、それを自分の中できちんと吟味・分析している。もっと言うと、分析するだけの知識がある。TPOの概念だったり、素材や歴史的な背景までも、知っていてあえて取り入れる、外すの工夫ができる。そういう人を見るとエレガントだなと感じますね。」


「最後に ”余裕“。好奇心、分析力が培われた人というのは、自ずと求めるものが高く、手の届かないものに対しての憧れやハングリー精神が旺盛です。もちろん、これは良いことなのですが、ハングリーであればあるほどエレガントなのかというとそれもまた少し違うと思うんです。真にエレガントな人というのは、好奇心に従いつつも様々なものをその都度きちんと分析しているので、現状にも納得感がある。今の自分だって常にHAPPYな状態なんです。その上で、更に上を目指したい。面白いことがあればチャレンジしたい。そういった少年のような無邪気な心の状態を維持している人は、ハングリーな中にも余裕がありますよね。本当にエレガントな人というのは、そういった余裕の部分が感じられる人だと思います。」

 

「好奇心、分析力、余裕」この3つのエッセンスをバランスよく育むことで、自然とエレガントな生き方へと導かれていくのではないだろうか。


■エレガンスの概念はミチノ・パリの作品にどのように表現されているのだろうか?


ミチノ・パリの内面的なスタイルであり、ブランドを通じたコンセプトでもある「エレガンス」。では、Yasuの思うエレガンスの概念は、作品にどのように落とし込まれているのだろうか。


〜自然体であること〜


「ミチノのレザーグッズ(代表的なものがバッグ)を作る時に心掛けているのが、”自然体である“ ということです。上述のエレガンスの概念にも述べたように、様々な外的要素を受け入れつつも、自分を失わない自然体の状態を大事にしていると言っても良いでしょうか。」


「デザイナーとしてバッグを見たときに、複雑な構造や奇抜なデザインは面白いけれど、製作段階で無理をしているなと感じるものもあります。ミチノのバッグは、デザイナーとして拘る部分は譲らないけれど、あくまで素材に無理をさせない。つまり、計算された美しさがありながら、自然体であることを忘れないよう心掛けています。」


〜好奇心・分析力・余裕〜


また、エレガントであるための3つのエッセンス(好奇心・分析力・余裕)は、ミチノ・パリのバッグにも当てはまるという。


「ミチノは、ベーシックなものを基礎としていながら、もちろんトレンドや今の時代のお客様が求めているものに対する ”好奇心” を忘れていません。それは、革の絞感であったり、持ち手の長さ、カラーバリエーションなど、細かいところに活かされているんです。


「そして、”分析力” について。ミチノのバッグは、一つ一つにストーリー性があります。ジヴェルニーのエピソードからヒントを得たグリーンもその例ですが、歴史や芸術、文化などをブランドなりに研究・分析して、それをバッグのデザインに活かしています。」


「最後に、”余裕” について。ミチノはブランドとして、”自分や他人をよりよい状態に導く” というテーマを持っています。より上質なもの、美しいものに対して憧れや知識があり、それを手に入れてみたいというハングリー精神がある。けれど、数十万もするようなハイブランド品を簡単に買うことはできません。また、そういった高価なブランド品ばかりを無理して沢山身につけたとしても、果たしてそれはエレガントに見えるでしょうか。

そう考えた時に、ミチノは、”では、まずその憧れを実現してみましょう!” と提案できるブランドなんです。分かりやすく言うと、ハイブランド品と比べても遜色の無い上質なアイテム、ハイセンスで品の良いものを、納得のできる価格で提供することができる。


幸い、ラグジュアリーメゾンで長年経験を積んできたお陰で、僕には質のよい素材を見極める感覚と、高い技術力を持つ職人さん、工場とのコネクションがあります。それを活かし、本当に良いものを、それを必要とする幅広い方々に自信を持ってお届けすることができるのです。つまり、上質なものに憧れがあるし知識やセンスもある方々が、余裕をもって良いものを持つことができる、そういう意味でのエレガントさも目指しているのです。」



ミチノ・パリのスタイルと「エレガンス」の正体


今回は、ミチノ・パリのスタイルとエレガンスの概念に着目した。「上質な美しさと機能性。」ミチノ・パリの作品が纏うこのスタイルは、フランスと日本の魅力を知り尽くしたYasuだからこそ創り上げられるものだ。また、ブランドを通じて感じられる「エレガンス」は、様々な人生経験を通じて培ってきたYasuならではの哲学そのものだと言って良いかもしれない。


次回は、品質維持やデザインの具現化に欠かせない職人や工房などのバックヤードについて、また今後のミチノ・パリが目指す方向性について着目してみたい。


取材・記事 藤井麻未